遺骨の所有権は誰にある?祭祀財産やトラブルを解説!

遺骨の所有権は誰にある?祭祀財産やトラブルを解説!

遺骨には所有権はあるということをご存知ですか。

所有権があるものと言えば、故人亡き後は他の物と同様のルールで相続されると思うかもしれませんが、実は違います。
よくニュースで報道されている遺骨の引渡請求などの事例の根幹は、この遺骨の所有権とその承継が実は一般の相続とは異なった判断基準で行われる、ということから発生しています。

そこでここでは遺骨の所有権が誰にあるのかという点と、その承継にはどのようなルールがあるのかという点について解説します。

 

遺骨の所有権は誰にある?

では、遺骨の所有権は誰にあるのでしょうか。
また、そもそも遺骨に所有権はあるのでしょうか。

遺骨は所有権の対象

日本の法律において、実体のある物品にはすべて所有権があるとされます。
所有権はあらゆる権利の中で最も保護されている強力な権利です。

実体のある物品という点では、遺骨に対する崇敬の念は別にして、遺骨はリアルに形と実態があるので「物品」そのものです。
したがって遺骨にも所有権があります。

普通の相続財産とは扱いが違う

しかしよく勘違いが起こるのは、所有権のある物品だからと言って、不動産や金融資産と同じルールで家族に自動的に承継されるという考えです。
実は遺骨の承継には、通常の相続とはまた異なったルールがあるのです。

祭祀財産とは何か

通常の相続ルールで相続される物品は「相続財産」と呼ばれます。

これに対して遺骨は「祭祀財産」というものに分類されます。
お墓や仏壇、仏具なども祭祀財産に分類されます。

祭祀財産と相続財産の最も大きな違いは、相続財産を相続した場合は相続税の対象となりますが、祭祀財産を承継しても相続税の対象にはならないという点です。
少し話が逸れますが、相続財産のお金で金無垢の仏具を作ってそれを祭祀財産として承継し、相続税をごまかそうという脱税は、このルールを悪用したものです。

また、相続財産は複数の相続人が分割して遺産相続するケースがほとんどですが、祭祀財産は原則として1人で承継します。

祭祀財産は相続財産と分けて考える

遺骨は相続財産ではないので、相続に関連した法律によって規定されている相続人とは全く違った人でも承継することが可能です。

遺骨は相続とは関係なく「祭祀を主宰すべき者」、これを「祭祀承継者」と言いますが、その人1人に所有権が認められるのです。
仮に相続権のない内縁の妻であっても、その内縁の妻が祭祀を主宰すべき者だと認められれば、遺骨は承継できます。

このルールは以下の民法897条に定められているものです。

第897条
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

ここでいう「前条」とは民法896条の「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」という条文を指しています。
つまり遺骨などの祭祀財産は相続財産とは全く別のものである、といことが民法でも明言されているのです。

祭祀財産の承継者はどのように決まるか

では上で挙げた遺骨を承継する「祭祀承継者」はどのようなルールで決まるのでしょうか。

祭祀承継者と祭祀主宰者は違う?

先ほども少し触れましたが、祭祀承継者とは、民法896条の「系譜、祭具及び墳墓等の祭祀財産を承継する者」を指します。

「系譜」とは祖先から引き継いでいる家系のことです。
「祭具」とは、仏壇、神棚、位牌、十字架などのことです。
「墳墓」とは、遺体や遺骨を埋葬した墓地に設置する墓石、墓碑などです。

遺骨は直接的にこの分類の中では触れられていませんが、民法解釈上、遺骨も祭祀財産に含まれるとされています。

また祭祀主宰者という言葉もありますが、意味は祭祀承継者と同じです。
法律の条文から、祭祀承継者と呼ばれることの方が多いでしょう。

祭祀承継者の決め方

祭祀承継者を決めるルールも民法896条に書かれている通りです。

まず最優先は故人が指定した場合です。
指定の方法は、書面でも口頭でもよいとされ、さらに遺言ではなくても故人の生前に、実態として祭祀承継者に相応しい行動をとっていれば、祭祀承継者として認められます。
家族の同意書があれば、親族や友人でも祭祀承継者になれます。

次に優先されるのが慣習です。
祭祀承継者について故人の指定がない場合は、慣習によって祭祀承継者が決定されます。
慣習とは故人の住んでいた土地、または生まれた土地で長年にわたって守られてきたルールのことです。
ただし、このルールに則って祭祀承継者が決まったケースは裁判の判例では少ないです。

3つ目に優先されるのが家庭裁判所による決定です。
故人による祭祀承継者の指定もなく、特段の慣習もない場合には、関係者が家庭裁判所に訴えることによって、家庭裁判所において調停手続、または審判手続が行われて決定します。
家庭裁判所の判断は、故人と祭祀承継者の関係性、過去の生活における関係の密着度、祭祀承継者の祭祀主宰の意思や能力、利害が関係する人の意見などをトータルで見たうえで行われます。

他人が遺骨を引き取ることはできる?

上でも例で挙げたように、内縁の妻など、故人と法的な関係性がないという意味での全くの他人でも祭祀承継者になって遺骨を引き取ることは可能です。

判断基準は、故人が内縁の妻を祭祀承継者に指定していれば、仮に本妻がいても最優先で内縁の妻が祭祀継承者になります。
指定がなくても故人の生前に内縁の妻が生活面で故人に尽くしていて本妻はほとんど没交渉だった、という場合などであれば内縁の妻が祭祀承継者として認められる可能性が非常に高いです。

相続放棄をしたら遺骨も放棄したことになる?

また、先ほど触れたように遺骨は祭祀財産であって相続財産ではありませんから、相続の対象でもなく、さらには相続放棄の対象でもありません。
ですから仮に相続放棄をした場合でも、遺骨という祭祀財産を承継することは可能です。

祭祀財産を承継したら何をしなければならないか

このように相続とは全く異なったルールによって、祭祀継承者遺骨に対する所有権が保護されます。
しかし祭祀継承者になった場合は所有権という権利だけではなく、以下のような義務も発生します。

墓地や仏壇の管理

まず一つに、お墓や仏壇を承継・管理します。

特に、お墓については、墓地の名義変更を墓地管理者に届け出る必要があります。
寺院の僧侶や霊園の経営者など、墓地の管理をする者には、墓地の使用者を管理する義務があります。
具体的には墓地使用者の名簿を作り、最新の状態に更新することです。

したがって遺骨を承継したら、墓地も承継するので、その旨を墓地の管理者に伝えることが必要です。
名義変更を忘れていると、墓地の使用権そのものを喪失してしまうこともあります。

法要を営む

法要を営むのも、祭祀承継者の役割に含まれます。

ここで注意が必要なのは、祭祀承継者になるということは、故人が追っていた祭祀の義務も同時に引き継ぐということです。
例えば、故人の親の三十三回忌があったら、その法要も主宰しなければなりません。

檀家としての務めを引き継ぐ

寺院墓地の場合は、ある墓地を承継するのはその寺院の檀家義務を引き継ぐということとイコールです。

ですから、祭祀承継者の帰依している宗教がその寺院の宗派と異なる場合には、宗旨変えの必要も出て来ます。
さらに檀家になるということは、寺院の催す行事への参加や、寺院維持、改修のための寄付なども求められます。

もし檀家をやめたい場合も、離檀の交渉は祭祀承継者が進めなければなりません。

遺骨をめぐるトラブルの例

以上が法律に則った遺骨の所有権の問題でしたが、具体的に過去あった遺骨をめぐるトラブルをご紹介します。

遺骨をめぐり引渡請求の裁判が起るケースも

遺骨をめぐるトラブルとしてよくあるのが、遺骨の引渡請求です。

たとえば先ほどの内縁の妻を挙げると、故人が亡くなった後に、長年一緒に暮らしていた内縁の妻が喪主として葬式も出し、墓地を購入して納骨し、位牌を自宅の仏壇に飾っていたとします。
そこへ本妻が現れて「自分が故人の正式な相続人なのだから、遺骨を引き渡せ」と要求をするケースです。

この場合は、内縁に妻という法的には認知されない関係だったとしても、長年連れ添ったこと、内縁の妻が喪主として葬式を出したこと、墓地を購入して納骨し位牌の管理をしていること、などを勘案して内縁の妻が祭祀承継者として、家庭裁判所から認められるでしょう。

ただし、故人が不動産などの相続財産を持っていた場合、故人が遺言状などで指定していなければ、その相続財産が内縁の妻に相続されることはありません。

遺骨争いの判例は?

以上のようなケースは実際に裁判所でも争われ、その裁判所の判断が判例として残されています。

その一例としては高知地方裁判所のが平成8年10月23日に判決を出した判例があります。

これは故人である「俊博」の遺骨の所有権を、原告としての内縁の妻と、相続財産の相続人である子供「博昭」が争ったケースです。家庭裁判所の判断としては遺骨は内縁の妻が承継するとされました。判決文を抜粋してご紹介します。

「被相続人が死亡した場合には、その遺体、遺骨も物体となって、所有権の対象となる」
「所有権といっても(中略)通常の所有権の概念からは著しく離れており、むしろ、祭具と近似するものであるから、民法八九七条の準用により承継される」
「敏博は、生前において、自己の遺骨の管理について、原告に委ねているのであるから、敏博の遺骨は原告において承継すべきものである」

ここで示されたように、遺骨は祭祀財産であるため相続とは別に行われるものであり、実態があれば相続対象者ではなくても祭祀承継者になれる、ということです。
本件では、故人が生前、自分の遺骨(祭祀財産)の管理者として内縁の妻を指定しているため、祭祀財産の扱いに則り、内縁の妻に遺骨の所有権があるとしています。

裁判所の判断は判例主義なので、以降は同様のケースがあってもこの判断が引き継がれています。

まとめ

遺骨には所有権があっても、ほかの財産と同様には引き継げないということがお分かりいただけたでしょうか。
多くの人にとっては、相続財産を相続する時に、同時に遺骨などの祭祀財産も問題なく引き継ぐので、以上でご紹介したようなトラブルに巻き込まれることはほとんどないでしょう。
しかし知っていて損はない知識です。もしも遺骨の所有権に関するトラブルに遭遇した際には、以上の解説を参考にしてください。

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