お墓参りというものを知っていても、分家などでお墓をまだ作っていない家庭では、お墓参りになじみがないかもしれません。
昨今では納骨堂や樹木葬などの新しい形のお墓も増えており、今後、墓石のお墓にお参りするという経験は、より希少になっていくかもしれません。
今回の記事では、お墓参りになじみがない方のために、お墓参りの流れやマナーについて解説します。
お墓参りの流れと方法
一般的には、お墓参りは以下のような手順で行います。
一般的なお墓参りの流れ
1.本堂にお参りする(寺院墓地の場合)
2.枯れ葉や雑草の掃除をする
3.墓石をきれいにする
4.お墓に水をかける
5.お供えをしてお参りする
6.お供えやゴミを回収する
ただし、必ずこの通りに行う必要はありません。
足繁くお参りする方は掃除はたまにでもお墓はきれいに保てますし、お供えや掃除が大変であれば、手を合わせるだけでも供養になります。
1.本堂にお参りする(寺院墓地の場合)
お寺の境内にお墓がある場合は、まずは本堂にお参りします。
2.枯れ葉や雑草の掃除をする
墓前に枯れ葉が溜まっていたら、集めて処分します。
雑草も抜いてきれいにしましょう。
3.墓石をきれいにする
墓石をきれいにします。
墓石は、柔らかい布やスポンジなどで磨きます。
文字彫刻の部分もきれいにしたい方は、柔らかい歯ブラシもあると便利です。
たわしや硬いスポンジで磨くと、墓石に傷ができてしまうので注意しましょう。
お墓の掃除は、基本的には水洗いで十分です。
もし汚れが落ちない場合は必ず「石材用」の物を用意してください。洗剤によっては、墓石にシミができてしまいます。
4.お墓に水をかける
手桶にきれいな水を汲み、柄杓でお墓のてっぺんから水をかけます。
なお、一部には「水をかけてはいけない」と考える人もいるようです。
お墓がお寺にある場合は、独自の習わしがあるかもしれないので、不安がある方は一度お坊さんに確認しましょう。
5.お供えをしてお参りする
墓前に用意したお供えを供えて、お参りします。
6.お供えやゴミを回収する
お供えの中でも、特に食べ物は原則持ち帰ります。
ロウソクの火は消して、線香はそのままにして燃やし切ります。
花は、多くの霊園でそのままにしていいことになっていますが、場所によっては持ち帰りをお願いしている所もあります。
ゴミは、ゴミ捨て場があればそこに、なければ持ち帰ります。
宗教ごとのお参りの作法
基本的にお参りは自由にして構いませんが、やはり十字が刻んであるお墓の前で「南無阿弥陀仏」と唱えるのではしっくりきません。
ここでは、宗教ごとの大まかなお墓参りの作法を紹介します。
仏教のお墓参りの作法
仏式のお墓参りについて紹介します。
仏式のお墓の見分け方
仏教のお墓。「南無阿弥陀佛」と彫刻されている。
日本にある多くのお墓は、仏式、つまり仏教の形式のお墓です。
「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」などの宝号が刻んであれば、間違いなく仏式のお墓です。
宝号が刻まれていなくても、線香などのお香をお供えするのは仏教だけなので、香炉があるお墓は仏式の可能性があります。
ただし、神道やキリスト教のお墓でも、お墓参りの文化に合わせて香炉を置くことがあるので、断定はできません。
仏式のお供え
仏式のお供えの例。お墓の形や地域によって配置は変わる。
仏教のお供えは「五供(ごくう)=香・花・灯明・水・飲食」です。
お墓参りでは、「線香・花・ロウソク・水・食べ物」を用意します。
水はほとんどの墓地で汲むことができるので、あえて用意する必要はありません。
花は花立てに、ロウソクはロウソク立てに、水は水鉢に、食べ物は供物台に供えます。
ロウソクに火を付けたら、そこから線香に火を付けて、香炉に置きます。
仏式のお参り
お供えができたら、手を合わせます(合掌)。
お参りが終わったら、ロウソクの火を手で仰ぐか、振って消します。
仏教の考えでは、口から出た息は穢れていると考えられているので、吹いて消してはいけません。
神道のお墓参りの作法
神道のお墓参りについて紹介します。
神式のお墓の見分け方
神道のお墓。正面彫刻に「奥津城」とあり、墓石のてっぺんが尖っている。香炉が無い。
神式のお墓は、歴史の長い公営墓地などで比較的多く見られます。
典型的な神式のお墓の特徴は、正面に「○○之奥都城(奥津城)」と彫刻されている、お墓のてっぺんが尖っている、香炉はなく八足台(お供えを置く台)が置かれている、ということなどが挙げられます。なお、「奥都城(おくつき)」とは、お墓の意味です。
これら全てでなくても、どれか一つでも当てはまる特徴があれば、基本的には神式のお墓でしょう。
神式のお供え
神式のお供えの例。お墓の形や地域によって配置は変わる。
神道では、「神饌(しんせん)」という、神様に献上する食べ物を供えます。
内容は、米や酒、塩、水などです。神棚を想像すると分かりやすいかもしれません。
お墓参りでは、故人が好きだったものを供えても構いません。
また、神道では花は供えず、基本的には榊を供えます。
神式のお参り
お供えをしたら、「二礼二拍手一礼」でお参りをします。
文字通り、2回お辞儀をし、2回拍手をし、1回お辞儀をします。
五十日祭(仏教でいうところの四十九日)より前にお参りをする場合は、拍手は「しのび手」といって、音を鳴らさないように拍手をします。
それ以降のお参りでは、拍手は音を立てて構いません。
キリスト教のお墓参りの作法
キリスト教のお墓参りについて紹介します。
キリスト教式のお墓の見分け方
十字架が彫刻されているキリスト教のお墓。香炉やロウソク立てが無い。
彫刻に十字架、あるいは聖書の引用があれば、キリスト教のお墓です。
一方、これらの彫刻がなければキリスト教のお墓をであるかどうか判断することは難しいのですが、香炉やロウソク立てが無く、花立て(または花を横に寝かせる台)のみがあるお墓は、キリスト教のお墓かもしれません。
形は、背の低い洋型か、本をかたどったデザイン墓が多い傾向にあります。
キリスト教式のお供え
キリスト教のお墓には白い花を手向ける。花立てが2つで1対になっていることもある。
キリスト教には、お供えの概念がありません。
墓前に手向けるのは白い花だけで、その他のものは置きません。
花は、白のカーネーションやユリ、小菊などが一般的です。
キリスト教式のお参り
献花をしたら、神様にお祈りをします。
基本的には、胸の前で両手を組んだ状態でお祈りします。
ただし、お祈りの方法は、宗派や教会によって異なり、十字を切ったり、祈りの言葉を唱えることもあります。
厳密に言えば、両手の組み方も教会によって異なります。
お墓参りのマナー
お墓参りのマナーについて解説します。
お供えは墓地の規則に従って持ち帰る
持参したお供えは、墓地のルールに従って持ち帰ってください。
一般的には、お花とお線香はそのままで良く、食べ物は持ち帰るという墓地が多く見られます。
ただし、墓地によってはお花も持って帰らなければならなかったりするなど、墓地によってお供えのルールは異なります。
管理事務所に相談するか、周りのお墓をみて、お供えの後処理を判断しましょう。
線香やロウソクの火を息で吹き消さない
仏教の教義上の観点から、線香やロウソクの火は、息で吹き消してはいけません。
仏教では、口から出た息は穢れていると考えられているためです。
火を消すときは、手で仰ぐか、手で振って消しましょう。
服装は普段着でOK
お墓参りをするときの服装は、普段着で構いません。
ただし、四十九日や一周忌、三回忌などの回忌法要の時は、礼服や平服を着ることが一般的です。
お墓にお酒やジュースをかけない
お墓にお酒やジュースをかけるのはNGです。
お酒やジュースをかけると、墓石にシミがついてしまうことがあります。
加えて、墓石の内部に入り込んでしまうと、サビやカビの原因になります。
お参りでしゃがむかどうかは地域や家による
お墓参りでは、ご先祖様を見下ろす形にならないよう、しゃがんでお参りするのがいいと言われることがあります。
この慣習は、地域や家によって根付いていることと根付いていないことがあるので、一概にしゃがむことがマナーだとは言えません。
もし義実家のお参りに行く機会があれば、義家族がどのようにお参りしているのかを見て、それに合わせましょう。
お墓参りは一人で行ってはいけない?
マナーや教義の観点から言えば、お墓参りは一人で行っても問題ありません。
ですが、実際には何人かでお参りに行った方が安心できることもあります。
例えば、お盆などの暑い時期のお参りでは熱中症になることがありますし、山などにある足元の悪い墓地では、足を滑らせて滑落するかもしれません。
墓地や天候のコンディションによっては、人を連れてお参りに行くことをおすすめします。
お墓参りの持ち物
お墓参りの持ち物には、以下のようなものがあります。
お供え
- 花
- 線香
- ロウソク
- 食べ物
- ペットボトルの水または湯飲み(水鉢がなければ)
掃除道具
- 軍手
- ほうき・ちりとり
- ゴミ袋
- ゴム手袋
- 柔らかい布またはスポンジ
- 歯ブラシ
お参りに必要なもの
- ライターなどの着火器具
- 数珠(仏式の場合)
- 手桶・柄杓(墓地になければ)
お墓参りに行く時期は?
お墓参りは、いつ行くべきでしょうか。
お墓参りに行く時期について解説します。
お墓参りはいつ行ってもいい
お墓参りは、いつ行っても構いません。
お彼岸のような行事が無くても、故人に思いをはせたい時、思い立った時にお参りに行きましょう。
お墓参りに行くことが多いタイミング
お墓参りはいつ行っても構いませんが、特筆するなら、お墓参りは以下のようなタイミングでよく行われます。
お盆
八月中旬にある「お盆」は、ご先祖様の霊がこの世に帰ってくる期間です。
ご先祖様が帰ってくるお盆初日の「盆の入り」では、ご先祖様の霊を迎えるためにお墓参りをするという慣習が定着しています。
また、ご先祖様があの世に還っていくお盆最終日の「送り盆」でも、地域によってはお墓参りをします。
実際に、会社でも「お盆休み」があることが多く、家族が集まりやすいタイミングでもあります。
春彼岸・秋彼岸
3月の春彼岸、9月の秋彼岸も、お墓参りに行く慣習が根付いています。
お彼岸の中日である「春分の日」と「秋分の日」は、太陽が真東から真西に沈む日で、この世とあの世が通じやすい日と考えられていました。
この日に彼岸(俗世と隔てられた世界)に行くための修行をしたというのが、そもそものお彼岸の由来です。
月命日・祥月命日
月命日や祥月命日は、ことさらに故人に思いが向く日です。
故人を偲ぶために、お墓参りに行く人もいます。
年末年始
年末年始も家族が集まりやすいタイミングなので、お墓参りに行く家庭もあります。
お墓は実家の近くにあることが多いので、帰省はやはりお参りに行きやすいタイミングの一つです。
人生の節目のタイミング
就職・結婚など、人生の節目のタイミングに、墓前で報告するという方もいます。
故人に語り掛け故人を思うことも、追悼の一つの形です。
お墓参りに行ってはいけない日はある?
逆に、お墓参りに行ってはいけない日はあるのでしょうか。
お墓参りに行ってはいけない日はない
お墓参りに行ってはいけない日は、特にありません。
「仏滅」「友引」「29日」はお参りに行かない方が良いと言われることがありますが、いずれも迷信の域を出ません。
お参りに行く本人やご家族が気にしなければ、お参りはどの日に行っても大丈夫です。
お墓参りに注意が必要な時期・時間
次のようなタイミングでもお墓参りに行くことはできますが、注意すべきタイミングがあります。
酷暑の日の日中
お盆などの非常に暑い時期のお参りは、熱中症に注意しましょう。
昨今のお墓は御影石のピカピカした墓石で造られており、照り返しは想像以上です。
特に日中は一番熱くなるので、暑い日のお参りは、朝または夕方がおすすめです。
「帽子をかぶる」「水分を摂る」などの、基本的な熱中症対策も行いましょう。
夜間
夜間のお参りも、注意が必要です。
特に整備が整っていない墓地では、照明がなかったり、側溝や急斜面などがあったりします。
滑落や転倒の危険があるので、無理にお参りすることはやめましょう。
また、熊や鹿など、本来夜行性でない動物も、人里に降りてくると人間との接触を避けるために夜行性になることがあります。
山の中にある、あるいは、山にほど近い墓地では、野生動物も警戒しましょう。
お墓参りに行けない時期・時間
場合によっては、お参りができない時期やタイミングがあります。
閉門している時間
霊園は屋外にあるので、一見するとどの時間帯でもお参りに行けそうです。
実際にそのようになっている霊園も少なくありませんが、一方で、セキュリティ面から、開園時間外は閉門し、人が立ち入れないようにしている霊園もあります。
もし早朝や夜にお参りに行きたければ、一度霊園に確認した方が無難です。
積雪地帯の冬季
積雪する地域では、冬になるとお参りできなくなる墓地が多くあります。
お墓もろとも、墓地が雪で埋もれるためです。
冬に雪国のお墓にお参りしたい方は、事前に確認しましょう。
まとめ
お墓参りについて紹介してきましたが、基本的には自由にお参りして構いません。
故人を偲ぶ心こそ肝要です。形に囚われすぎず、故人との関係を築いていきましょう。
ただし、食べ物は持ち帰る、お墓にお酒をかけない、など、お墓や墓地の管理者に迷惑をかけないためのルールは守りましょう。
経歴
2018年より、お墓マガジンのコラムを執筆しています。適切な情報をお届けできるよう努めて参ります。